デジタル化推進講座「デジタルで自社のビジネスがどう変わるのか」

令和5年1月19日、今年度4回目となる「デジタル化推進講座」を高知会館にて開催しました。

昨今、多方でデジタル化推進が叫ばれていますが、その一方で「デジタル化の効果がイメージできない」、「デジタル技術を自社の経営にどのように生かせばよいか分からない」といった疑問を抱えている企業も数多くいます。

そうした疑問を解決するためのヒントとなるのが本講座です。DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義や考え方、さらに、デジタル技術を活用して業績を伸ばしていった企業の事例などを学んでいきます。

今回講師を務めるのは、「株式会社ABEJA」の代表取締役CEO兼創業者である岡田陽介氏。10歳からプログラミングをスタートし、AI・データ契約ガイドライン検討会をはじめとする政府有識者委員会にて委員を歴任するなど、日本のデジタル化の最前線に立ち続けている専門家です。

AI活用のボトルネックは人間!?

まずは、DXとAIについてのお話です。
「DXは当初『何年間かかけて進めていこう』という話だったが、近年は『できだけ早く実施しよう』に変化している。多くの企業が前倒しで取り組みを進めており、需要に対して供給が追い付かない事態になっている。」と話す岡田氏。

DXの中でも重要な役割を担うのが「AI」です。

以前は人間がプログラミングを行っていましたが、あまりにもデータ量が多くなりすぎたことで人間が把握・理解をしきれなくなっています。膨大なデータを瞬時に処理し、答えを導き出せるAIは便利である一方、どうしてAIがその答えを導き出したのか人間側が理解できていない状況も生まれています。そのため、自社の仕組みにAIを取り入れることに苦戦する企業も少なくありません。

また、AIに人間以上の仕事をさせようとする場合、人間が処理できる以上の膨大なデータが必要となりますが、人間がデータを適切に渡せていないことでAIがうまく機能しないケースも起こっています。「AI活用で最もボトルネックとなっているのは人間なんです。」と岡田氏は話します。

企業がAIを活用していこうとする際に、

A:今あるデータからできることを考える

B:本当にやりたいことを考えてからデータを取得する

の2パターンに分かれますが、「Aパターンでは上手くいきません。」と言う岡田氏。

参加者に、「今あるデータと、やりたいことに必要なデータは、決してイコールではないのです。本当にやりたいことをしっかりと考えてからDX全体の設計を行いましょう。」とアドバイスしていました。

DXで肝心なこと

次に岡田氏は「DXで利益を上げるとは、どういう意味だと思いますか?」と問いかけました。

従来のビジネスモデルは、企業が従業員に給料を払い、その従業員が顧客に価値を与えることで企業は利益を得ていました。そのため利益をアップするには、従業員の数を増やす必要がありました。

一方、DXでは、従業員の代わりにAIが働くことによって、顧客に与えられる新しい価値を増やしていくことができます。

つまり、これまでは、人件費がかかるためビジネスモデルとして成立しなかったことが、AIを活用することで新たなビジネスモデルになっていくということです。

ここで岡田氏は、ある数式を見せてくれました。

こちらは企業の複利(投資の利益を元本に加えた上での運用利益)を表す数式です。

y(t)=a(1+r)t

y(t)はt年後の資産額、aは元本、rは利率、tは時間を示します。

これまで企業は、r(利率)を最大化することを目指していましたが、DXにおいては、t(事業のサイクル)を加速させることが焦点となっていきます。

利率は変わらずとも、そこに係る時間を短縮し、どんどん加速させることで企業を成長させていくという考え方です。

事例として、学生が考えた保険会社向けの認知症検知システムのビジネスモデルが紹介されました。従来の枠にとらわれない考え方に、参加者は感心の表情を浮かべて聞き入っていました。

岡田氏は「これまで100人いないとできなかったことを数人でできるようになれば、低いコストで高い利益を得ることができます。つまり、DXとは従来の利益構造を破壊して、新たなビジネスモデルを生み出すことなのです。皆さんがDXを行う際に大事なことは、自分の業界においてtを早回しするとはどういうことなのかをしっかりと考えることであると思います。」と話していました。

他社の事例から学ぶ

講座の後半は、実際に他社でどのようなDXが行われているか、さまざまな業種を例に挙げながら教えていただきました。

また、講座の最後は質疑応答の時間が設けられました。

参加者からは「【t】のイメージができない」「オリジナルのシステムが必要か」といった質問が寄せられました。

岡田氏からは

「【t】はDXの肝ですので、すぐにイメージすることは難しいと思います。それは大企業においても悩みどころです。まずは、ハードではなくソフトなど簡単に変られる部分に着目することがコツです。」

「既存のシステムで行うこともできます。ただ、他社と同じシステムを使っても優位性が生まれないのも事実。ノーコードやローコードの仕組みを使いながら、一部分をオリジナルシステムにしていく方法も有効だと思います。」

など、参考になるアドバイスが行われました。

本講座を通して、DXに取り組んでいく上での「着眼点」に変化が生まれたように感じました。それぞれの業種や企業における最善のデジタル化を目指し、参加者の皆さんの模索はこれからも続いていきます。

講師より

「デジタル化推進においては、「ITツールの導入」だけでゴールを迎えてしまうケースが多く、ITがコスト化してしまっている企業も多いです。DXをどういう風に進めていくか、解像度を高めていけば地方の中小企業さんが都会の大企業を打ち負かせる可能性もあります。まずは、自身の業界においての【t】がどこにあるのか、その【t】を加速させたらどういう変化が起こるのか、想像するところから始めてみてください。」(岡田陽介氏)