IT・コンテンツビジネス講座 @高知大学 理工学部
理系人材として会社で働くということは?~チャンスは見えないところで繋がっている~

令和3年11月、高知大学理工学部の学生を対象に「理系人材として会社で働くということは?~チャンスは見えないところで繋がっている~」と題した講義をオンラインにて行いました。

講師としてご登壇いただいたのは、e-Janネットワークス株式会社 代表取締役 坂本 史郎 氏です。また、高知大学理工学部で物理を担当し、e-JanネットワークスでQAエンジニアとして勤務されているリ・トンギュ 氏もオーディエンスとして参加され、学生目線で講義内容について質問しながら講義を進めていきました。

講義内容

  1. はじめに(e-Janネットワークスについて)
  2. 東レ株式会社での実際の仕事
  3. MBAでは何を教えているのか
  4. e-Janネットワークスという会社を起業して
  5. 働き方はどう変わっていくのか?
  6. 高知でのテレワーク
  7. 最後に

1.はじめに(e-Janネットワークスについて)

はじめに坂本氏から学生に向けてメッセージが送られました。
「私も理工学部を卒業して様々な体験を経て起業しました。私の体験そのものが皆さんの将来に当てはまるわけではないですが、ぜひともこんな例もあったんだと参考にしてもらいたいです。」

坂本氏は、早稲田大学 理工学部 機械工学科を卒業後、東レ株式会社に入社しバージニア大学に留学、MBAを取得し帰国後株式会社いい・ジャンネット(現e-Janネットワークス株式会社)を設立しました。

e-Janネットワークス株式会社

e-Janネットワークスは2000年に設立され、業界シェアNo.1の法人向けテレワークプラットフォーム「CACHATTO(カチャット)」を10年以上にわたって開発・販売を行っている会社です。本社は東京ですが、2018年12月に新たな拠点として「高知テクニカルセンター」がスタート、インド現地法人を含めると120人程が在籍しています。

従来のオフィスはフリーアドレススペースや電話会議専用ブースがあるなど、従業員が自由に場所を決めて働いていましたが、現在は従業員のほとんどがテレワークを行っており、高知オフィスには5名しか出社していない日もあります。
働き方の変化に対応したサービスを提供し成長し続けている会社です。

新入社員が入ると歓迎会を行ったり、毎年クリスマスパーティーを開催することで従業員の家族同士が仲良くなったりと、社員同士やその周りの人との繋がりを大切にする会社であることが伝わります。

高知オフィスを開設 県内大学とのプロジェクトも始動

高知県・高知市による誘致により、2018年12月に高知テクニカルセンターを開設し製品のQA(品質保証)業務を開始しました。

2020年7月からは営業部門やサポート部門も追加され対応業務を強化。

そして新たな取り組みとして、11月に県内大学と産学連携協定を締結するとともにプロジェクト拠点として「e-Janラボ in Kochi」を設立。元銀行店舗ならではの設備である金庫室を改装したVRルームによる没入感のあるコミュニケーション環境の整備や、リラックスした交流ができるキャンプエリアなどが設けられています。地元学生とのテクノロジーを介した交流を行っていくとのことで、県内学生のIT分野への関心がより一層高まっていきそうです。

2.東レ株式会社での実際の仕事

e-Janネットワークスについての説明の後、B-to-Bビジネスや理系人材として働く上での重要なポイントについて、坂本氏が東レ株式会社に在籍されていた時の経験を踏まえたお話がありました。

アメリカとの合弁事業を行っている東レ・デュポン株式会社に配属された坂本氏はアラミド繊維”ケブラー”の開発を任されることになります。ここでは「どのような部署に配属になろうと大事なのは配属先で仕事を楽しんで能動的に働くことだ。」とこれから社会に出ていこうとする学生に向けてアドバイスがありました。

ケブラーとは

鉄と同じ重量で5倍の強度を持つ繊維。
アスベストの代替や防弾チョッキの素材などに用いられていたものですが、絶縁不良の原因であるイオン性不純物が多いため、絶縁性(電気や熱を通しにくいこと)が求められる電子基板には採用されていませんでした。坂本氏は、ケブラーを携帯電話の電子基板の絶縁体として採用させるというミッションを与えられることになりました。

コロンブスの卵と呼ばれた発明

型にとらわれない柔軟な発想が大切だと語る坂本氏は、仮説検証を繰り返すことで、それまで当たり前だった従来の加工工程を変えることで、特性を変えずにより多くのイオン性不純物を抽出することに成功しました。この発明は「コロンブスの卵」と呼ばれたそうです。

これが大手メーカーの目に留まり、携帯電話の電子基盤の絶縁体として採用されたことで、ミッションを達成。自身の開発したものが大手メーカーに採用され、大手メーカーがさらに様々な企業と協力をして一つの製品をつくる。そしてその製品が消費者のもとへ届く。普段私たちが使用する製品の裏には沢山の企業が関っていて、そこには技術者の魂がこもっているとのお話がありました。

坂本氏
「こういった世界は表からは見えない部分ですが、その一つ一つにはドラマがありとてもやりがいのある事で、こういった事をやるのが理系人材なんです。」

こうして、それまで電子基板に使用されていた素材の代わりケブラーがシェアを取り、それ以降の携帯電話の開発に使用される事となりました。

坂本氏
「企業で開発するということがイメージできましたか?素材の特性を変えることは難しいですが、前例に縛られずに柔軟な発想を持つことで発明が生まれる。必ず実現できるという強い意思を持ってやり抜くことが大事です。」

3.MBAでは何を教えているのか

アメリカとの合弁事業を行っていたおかげで英語が得意になったという坂本氏。

その後、東レにMBA(経営学修士)の取得を支援する制度が出来たことでバージニア大学への留学を決意します。ここからはMBAでは何を教えているのかについてその当時の留学経験のお話がありました。

MBA(Master of Business Administration)とは

大学院において、経営に必要な高度な知識とスキルを習得し修士課程を修了すると授与される経営学修士または経営管理修士と呼ばれる学位。学位取得にはMBAプログラムを提供している大学院(通称:ビジネススクール)で修士課程を修了することが必要。

坂本氏が通ったバージニア大学MBA(通称”Darden”)

坂本氏は、仕事を1週間休んでアメリカに渡り、自分が興味のあるMBAが取得できる大学院をいくつか訪問しました。その際にバージニア大学のCase Study(実例を用いて議論しながら学習を深める学習手法)という授業形式にとても感心したそうです。

地に足付けて考えて思いついたことを発言する学習方法なら付いていけると確信し「この大学だ!」と受験を決意。その熱意をそのまま面接で伝え、論文を提出し、無事入学試験に合格しバージニア大学への留学が決まりました。

授業はCase Studyの形式で、学生はLearning Team(5~6名からなる学生グループ)に分かれ、1日3コマの授業で課せられる3つのケースについて授業前日に準備。翌日の授業でのディスカッションを想定しながら予習をするため、徹夜になる場合も。チームで前日に勉強し、翌日の授業でクラス全体で議論をすると同じ事例を扱っていても様々な視点がある事に気づくことが多かったとのこと。

また、授業中に突然教授から「今のケースについてどう思いましたか?」と質問(コールドコール(背筋が凍る)という)があり、事前に勉強したことを基に発言すると他の学生からさらに意見が出るという環境の中、英語が得意ではない坂本氏はあえて、学生の意見が少なくなる授業の後半に発言をし、評価を上げるという小技を身に付けて生き抜いたと言います。

4.e-Janネットワークスという会社を起業して

ここからはe-Janネットワークスを創業する経緯についてお話をいただきました。

起業を決意

1995年にMBAを取得して帰国した坂本氏は起業を決意します。MBAでの学びから、良いチームを作らなければならないと考え、相反するものを両立させている人や起業したい人、夢を持っている人を集め「人々がいいじゃん!というものを提案して実現していこう!」と一致団結し新事業の考案を開始しました。

創業までの苦労

1998年に、「電子メールを保管するサイト」についてビジネスプランを作成し、1999年11月に会社にビジネスプランを提出。

社内ベンチャーへの投資案件としての検討が順調に進む中、外部機関から「この技術開発に成功し頭角を現すことができたとしても大企業が模倣する。差別化できる要素を持っていないためこの案件には投資すべきではない。」との意見が出ました。「ベンチャーそのものができないじゃないか」と一時は目の前が真っ暗になったものの、やめるわけにはいかないと再奮起し、懸念点を全て覆すビジネスモデルを再作成。アメリカ出張から戻る副社長のお迎えの運転手に新プランを託し、見事起業が叶います。

こうして2000年3月6日に会社登記申請書が受理され、株式会社いい・ジャンネットを創立しました。

CACHATTO(カチャット)の紹介

主力製品であるテレワークツール「CACHATTO」は、リモートで会社のシステムにアクセスするための一般的な仕組み(VPN)を使わずに、信頼性高く通信できるシステムを開発したものです。利用者が端末でCACHATTOにログインすると、社内にあるCACHATTOサーバーが窓口となり利用者の要求に応じた情報を端末に送付、利用者は端末でその情報を見ることができます。

この仕組みがセキュリティ面で万全だという評価を受け2002年に特許を取得。現在はリモートアクセスサービス分野での国内シェアが4割で9年連続No.1、累計1,500社70万ユーザーに使用され、官公庁・自治体、大手企業で採用されています。

坂本氏
「事業が拡大すると様々な難題が出てくる。だが、地味で大変な開発を行い、着実に実装してきたからこそ他者が容易に真似できないものをつくることができている。ブレイクスルーの後に本当の課題が出てくるのが人生そのものです。」

5.働き方はどう変わっていくのか?

続いて、テレワークの導入が進むことで変わるこれからの働き方についてお話がありました。

地域的な変化

e-Janネットワークスの従業員が会社に出社するのは週2日くらい程で、テレワークの定着によってITツールが定着することで、地元に帰る人が増えたり、自国勤務希望の外国人社員が入社したりと社員の獲得にも繋がっていると言います。

時間の使い方の変化

テレワークにより通勤時間が無くなった分ライフワークバランスが取れて充実した生活が送れる反面、残業時間が増える傾向があるなどの影響も出ています。

コミュニケーションの変化

テレワークにより、コミュニケーションが悪化するという心配があったものの、オンラインツールのリテラシーが向上し、よりコミュニケーションを取るための工夫が増えたことで大きな影響はなかったと言います。もともと静かな環境が好きな人材が自宅で仕事にをすることで生産性が上がったり、出社する事にストレスを感じていた人材が生き生きと働いていたりするとのこと。

オフィスの意義の変化

もともと出社することがストレスだったという人材も、今は皆とのランチを楽しみにオフィスに来る等、前向きな思考に変化しているそうです。そこでe-Janネットワークスでは、函館にサテライトオフィスをつくり、そこで働くための従業員の旅費を負担する制度を設けました。

テレワーク時代で生き残るには

働く場所の柔軟性は採用面での強みになると坂本氏は話します。柔軟な働き方を整えておくことでU・Iターン希望者や海外勤務希望者など優秀な人材の確保に繋げています。

6.高知でのテレワーク

最後に、実際にテレワークをしている高知テクニカルセンターでの事例の紹介がありました。

坂本氏
「もうコロナウイルスの影響は大きくないからテレワークはいらないという考えは甘い。働き方の柔軟性を持たないと地方でも競争力がなくなる。そして、高知テクニカルセンターではほとんどの社員がテレワークを進めている。」

テレワークを導入してみて

実際にテレワークを導入してみて明らかになることが多く、開発や事務系の業務は簡単に切り替えができたものの、高知で実施している製品の検証・テストは様々な端末を必要とするため、切り替えに苦戦したそうです。

テレワーク実施についてアンケートを取ると、全体としてはメリットのほうが多かったそうで、日本全国で導入するべきだと坂本氏は語ります。

e-Janネットワークスがテレワークで使用しているツール

ITツールを導入することで東京と高知の距離感がなくなり一体感が増えているそうです。例えば、FaceTime(ビデオ通話アプリ)を使用して遠隔でもコミュニケーションを取っている他、Zoom+CommentScreen(リアルタイムに画面上にコメントや絵文字などを流すサービス)で社内プレゼンテーション時にプレゼン画面に他の社員からのコメントが流れるように工夫しています。

さらに、 "CrossCom"という社内SNSのようなコミュニケーションツールも開発されたそうで、写真を載せコメントをすることでコミュニケーションが活発になり、新製品の開発や企画に繋がっています。これは、緊急性はなくても皆と繋がりを持ってコミュニケーションを取る事が大切だという考えから導入されました。

また、坂本氏も山梨県の別荘にiPadとノートパソコンを持ち込んでハンモックの横で仕事をする日があるそうです。

7.最後に

最後に坂本氏から以下メッセージが送られ講義は終了しました。
「人は同じ環境に置かれ続けるとマンネリ化します。ビジネスは継続的な発明が必要であり、そのためには同じことを繰り返してはいけません。絶えず工夫し、困難に挑戦して発展していかなければいけない。働く場所を選ばないことはITがもたらした良さではあるが、人と人が直接会って話す事のありがたみや重要性も増えています。

社会人になって35年ですが、理系人材として様々な事にチャレンジして今の状況があります。今後もそういったチャレンジを重ねていく事は私の楽しい人生の生き方だと思います。人生はあっという間です。学生の皆さんも様々な事にチャレンジして多くの体験ができるといいでしょう。」