NVIDIA社・鈴木博文氏による「世界各国のAI応用の最前線とそれを支える基盤技術の最先端」の開催レポート
2022年1月11日、「世界各国のAI応用の最前線とそれを支える基盤技術の最先端」をテーマにオンライン講座を開催しました。(主催:高知工科大学、高知県、共催:電子情報通信学会四国支部、IEEE Shikoku Section、協力:一般社団法人日本ディープラーニング協会)
講師としてお招きしたのは、ディープラーニング用ハードウェアGPUの世界的ベンダーであるNVIDIA社の鈴木博文氏です。
高知工科大学情報学部の学生や国内の大学高等教育機関研究機関の関係者が集まり、100名以上が受講しました。その様子をレポートします。
講座の概要
- 諸外国でのAI応用ビジネスの最前線
- AI応用ビジネスに使われるNVIDIA社の基盤技術
- NVIDIA社の今後の技術展開の最先端
本講座の概要は上記3つです。
前半は、AIを応用した実際の事例についての映像を使っての紹介、後半ではNVIDIA社の基盤技術や今後の技術展開についての解説がありました。NVIDIA社とは
はじめにNVIDIA社の事業内容とこれまでの歴史について紹介がありました。
NVIDIA社はアメリカの半導体メーカーで、その中でもグラフィックスやAI向けの半導体の研究開発に強みを持つ企業です。
1993年にシリコンバレーで創業し、現在では世界の時価総額ランキングでTOP10に入るほどの大企業に成長しています。(※2021年12月末時点)
これまでの歴史や実績を簡単にまとめたので下記の表をご覧ください。
年代 | 事業内容の変化 |
---|---|
1993年〜 | ゲームなどのコンピュータグラフィックスで使われる半導体(GPU)およびソフトウエアの研究開発。 |
2006年〜2010年 | GPUを計算やシミュレーションに利用する動きが活発化(GPUコンピューティング)。 |
2012年〜 | AIの第3次ブームが始まる。2012年のILSVRC2012で、AlexNetがGPUで学習を加速させ2位に大差をつけて優勝。以降、深層学習の研究開発でのGPUが広く使われるようになった。 |
2018年〜現在 | メタバースやDigital Twinのようなデジタル空間への技術投資、研究開発を強化。 自動店舗、ヘルスケア、農業、金融、工業など幅広い業界のAI活用を支援。 |
世界各国のAI応用事例(一覧)
世界各国でのAI応用事例としては、下記のような内容があります。- 自動店舗
- 製造業
- 金融業
- 畜産業
- ヘルスケア
- 農業生産
- 自動運転
- コンピュータを使ったシミュレーション など
この中から「自動店舗」「製造業」「金融業」「畜産業」の事例について詳しく解説がありました。
【AI応用事例①】自動店舗

近年、日本でも導入が進んでいる自動店舗ですが、世界的に見ても著しい進歩を遂げています。
店内に設置されたカメラがお客さんの動きを感知し、
- どういう風に移動しているか(動線)
- どこが混み合っているか
- どの商品を手に取っているか
などのデータを蓄積していきます。
そして、蓄積されたデータを分析することで、売上の最大化や動線の最適化、在庫切れの防止に役立っているとのことでした。

また、店舗の自動化だけではなく、サプライチェーンにもAIが活用されており、倉庫の管理〜配送までの一連の流れを自動化・最適化しています。
地域ごとの売上や気象情報、イベント情報などをデータベース化して、
- 倉庫内のピッキング作業を最適化
- どの地域にどのぐらいの商品が必要かを予測
- ラストワンマイルをロボットによって自動配達
などに貢献しています。
【AI応用事例②】製造業

続いて製造業の事例が紹介されました。
こちらは人間が日常的に使っている言葉を認識する「自然言語処理」を用いたシステムです。
工場などで作業していて手が塞がっているときでも、音声を吹き込むだけでメンテナンスのレポートが完成します。
次にドローンを活用した点検作業の効率化について紹介がありました。
アメリカのボストンにあるAvitas Systems社は、ガスやパイプラインのメンテナンス、インフラ点検などにドローンを活用しています。
これによって人間が作業できないような険しい場所の点検も可能になりました。
それと同時に100億円かかっていた費用を25億円にまで下げ、75%のコスト削減に成功しています。
【AI応用事例③】金融業

金融業界では、AIを活用してカードの不正利用や不正送金をリアルタイムに近いスピードで防止する取り組みが行われています。
世界的に有名なクレジットカード会社『American Express』の場合、年間に80億件以上もの処理をしないといけないので、いかに処理スピードを上げるかが重要なのだそうです。
オンライン決済サービスのPayPal社でもAIによる不正検知を行なったり、チャットボットによる自動応答システムを導入したりしています。

また、クレジットカードや賃貸などの審査結果に倫理公平性を保つ取り組みとして、Fiddler社のAI活用事例が紹介されました。
性別や年齢などの情報を元に「どのような判断が下されたのか」「なぜ却下されたのか」を可視化して、説明責任を果たすというものでした。
【AI応用事例④】畜産業

こちらは牛の結核検査にAIを応用した事例です。
今までは人間の手で牛の結核検査を行なっていたのですが、コストがかかる上に精度が高くないという問題がありました。
そこで「牛の動きを観測したデータ」や「牛乳に含まれる菌のデータ」を組み合わせ、牛の健康状態を導き出すためのAIモデルを開発。
このモデルを適用することによって、牛の体調などを早めに察知できるようになったとのことです。
AI応用ビジネスに使われるNVIDIA社の基盤技術
講座の後半ではNVIDIA社の基盤技術について説明がありました。
・自然言語生成モデル『Megatron-Turing NLG 530B』
2021年の秋ごろにNVIDIA社とマイクロソフト社が共同開発した『Megatron-Turing NLG 530B』。
『Megatron-Turing NLG 530B』は自然言語処理の改善を目的に開発され、約5,300億個のパラメータを持っています。
この5,300億という数字は、既存の最多クラスのパラメータ数を持つ言語モデル『GPT-3』の約3倍です。
これによって、より高い精度で自然言語の処理が可能になりました。
・Ampereアーキテクチャーを採用した『A100』

AmpereアーキテクチャーベースのGPUを搭載した『A100』。(メモリ:80GB、メモリ帯域:2TB/s)
こちらは従来のグラフィックス用のコアとは別にディープラーニング専用のコアを搭載しており、より高速な処理が可能となっています。
そして、このGPUを8つ組み合わせたのが、世界最速のGPUサーバー『DGX A100』です。
NVIDIA本社の近くにあるデータセンターには、この『DGX A100』が560台も繋がっていて、言語モデルの研究開発などに利用されています。
・NVIDIA社のスパコンが世界各国で導入されている
先ほど紹介した『DGX A100』は、スーパーコンピュータ(通称スパコン)にも使われており、世界各国で導入が進んでいます。 例えば、イギリスで動き始めた『Cambridge-1(ケンブリッジワン)』は、コロナの影響もあって薬の開発などに使われているそうです。また、フロリダ大学では、学生の研究や教育、地域のスタートアップ企業でもスパコンを使えるような取り組みをしているとのことでした。
NVIDIA社の今後の技術展開の最先端
NVIDIA社は2021年春に、データセンター向けのCPUを開発していることを公表しました。
その背景には、データセンターで大量のデータを扱う上でCPUの性能がボトルネックになっていることが分かってきた、ということがあります。 GPUだけが高性能でもCPUとのデータ転送が遅ければ、データの処理に時間がかかってしまうそうで、業務を最適化させるために自社でCPUも開発することになったそうです。 そのほかにも、いわゆるデジタルツインへの取り組みを強化しており、- 地球全体規模での気象予報や環境保護のためのシミュレーション
- 街全体をデジタル空間に構築しての自動運転のシミュレーション
最後に
最後に鈴木氏からこんなメッセージがありました。自分たちはハードウェアやソフトウェアを開発していますが、現場の課題解決には世界中の開発者の方が欠かせません。ご紹介してきたようなハードウェア、ソフトウェアを通じ、NVIDIAは世界中の250万人の開発者、8500社のスタートアップの方々のご支援を継続してまいります。今、世界中のさまざまな分野でAIの導入が進んでおり、それを支え続けているNVIDIA社の取り組みは、とても意義のあることだと思いました。 これまで人間が行なっていた作業や人間にはできなかったことでも、AIがサポートすることによって、
- コスト削減
- 業務効率化
- 検証精度の向上
- 安全性の向上
- 犯罪防止